夢の途中
鉄扇はだいたい7・8キロはする。しかし、そんな重いものを空中に上げたり下げたりと惠瑠は遊んでいるのだ、驚く他ない。
「お前ぇ、重くねーのか?」
そう聞くしかないだろう。
「ん?あぁ…、まあ普通じゃない?」
満更でもない顔を向けて、また鉄扇で遊びだす。どうやら気に入ったみたいだ。
――なんて奴だ。
こんなもんを平気に持つ奴なんて、そうそういない。こいつを甘く見すぎてた。一体なんなんだこいつは。
芹沢は少し唖然としたが、ハッとなってすぐにいつもの顔に戻した。
「いいか、鉄扇を持てても刀はもっと重いんだ」
「どれぐらい?持てるぐらい?」
「そういう重さじゃねえ、刀は俺たち武士の魂そのものだ。そいつぁ、何にも変えられないほどの重さをもってんだ。わかるか?」
「……」
「お前はそれを持つ覚悟はあんのか?」
芹沢は鋭い目を惠瑠に向けた。惠瑠は少し俯き考える。
惠瑠は思う。
――何を今さら躊躇する必要がある?たった今自分で言ったではないか。
失うものは何もない
手に入れるだけだ
惠瑠は俯いた顔を上げる。そこには何も迷いのない目をしていた。
「(こいつ、化けやがった)」
芹沢は惠瑠の目を見て、肯定だとし、店の外へ出ていった。そこにはニヤリとどこか楽しそうな顔をして。