夢の途中
しかし勝負はなかなかつかず、打ち合いが続いていた。それでも惠瑠の力と速さは衰えない、むしろ増している。
惠瑠は幼いころから厳しく鍛えられて、このぐらいの試合なんて慣れているのだ。
一方、沖田もさすが剣の天才と言われたほどの人物だ。相手の動きを俊敏に見極めている。
――このままでは拉致があかない。
そう思った惠瑠はまた沖田と距離をとる。汗のせいで顔に引っ付いた髪を鬱陶しそうに払いながら口を開いた。
「あなた…やっぱり強いね」
「そんなこと――」
「だからさ、本気になっちゃったじゃん」
惠瑠の瞳が怪しく光る。
沖田はこんな目をするやつがいるのか、とぞっと鳥肌が立ったのが分かったのと同時に興奮を覚える。今までの経験の中でここまで殺気を感じたことはない。体が反応している。
惠瑠も沖田と戦っていることに体中がぞくぞくとしている。
すると、惠瑠はピッと竹刀を横に掲げる。その格好に皆が注目し、眉をひそめる。
それもそのはず、普通の構えとは違いすぎる。
そんなことは無視して目を細めて沖田を見つめる。沖田は惠瑠が何をし出すか全くわからず少し戸惑いの表情をするが目線はそらさない。
「あのさあ、私あんまり使うことないんだけどあなた強いから…、いいよねたまには」
と惠瑠が1人訳がわからないことをぶつぶつ言いはじめた。
そして、独特な格好をしたと同時にダンッと思い切り蹴ったと思いきや目にも止まらぬ早さで沖田に向かい、瞬間にもう沖田の後ろ側に立っていた。
カラン、カラン
竹刀が床に落ちた音が道場に響いた。やけに蝉の声がうるさかった。