夢の途中
「お前ぇスゲーなあ!」
「うおっ!!」
沖田としばし座りながら世間話をしていた惠瑠は背中をいきなり叩かれ前にぐらついた。しかもかなりの強さだったから少し痛かった。いや、少しではない。
「おい左乃、いい加減にしとけ。んな強く叩いたら可哀想だろうが」
原田の後ろから呆れた顔をした永倉はベシッと手拭いでたたいた。惠瑠は、ナイスなお兄さんだと心の中でガッツポーズをした。
しかし原田はすまんすまん、とたいして反省していない様子でニッと笑って今度は惠瑠の頭をわしゃわしゃと撫でた。
惠瑠は不服そうな顔をし、原田と永倉を見上げた。原田と永倉とは初めて会った。2人ともデカい男だなあと思いじーっと見つめる。
それに気づいた永倉は手拭いを首に巻き柔らかい笑みを浮かべた。
「名前は何て言うんだ?」
「足立惠瑠です」
「惠瑠か、…それにしてもお前強いなあ」
ああ全くだ、と原田も永倉の隣で頷いた。
「僕なんて突き飛ばされちゃいました」
沖田も一緒に笑って惠瑠を見る。
「それはあなたが油断してたからでしょ。次は絶対負けますよ私」
「そんなことありませんよ。あなたは強いし、……身震いするほどの殺気を感じました」
「殺気…?」
沖田の言葉に永倉が反応し、沖田と視線を合わせる。永倉は不思議だったのだ。何しろ沖田は剣の天才、少しの殺気なんて気にしない人間だ。しかし今の顔は真剣そのもの。惠瑠に興味を示しているのもある。
「殺気かあ…、私特には考えたことないからわかんないな」
「…自分ではわかんないのか?」
普通自分がどんな風に戦っていてどう思っているのかわかるはずだが、惠瑠は感覚と野性的な直感で竹刀を操る。もはやありえないというように永倉は驚いた。
永倉自信は頭で考えて構成を組み立てていくようにして戦うから、惠瑠のような自然体の戦い方に少し面白いと思った。
実際惠瑠と話していて、どうみても話し方は落ち着いているが年ごろの女子としか思えない。わかんないもんだなと永倉は関心した。
その間、さっきまで騒いでいた原田が真剣な顔をして惠瑠を見ていたとは気づかず――――。