夢の途中
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「――…ちゃん、お嬢ちゃん。はよ起きい」
「ん……あ…?着いたの?」
「何言うてんの、あんたなんでこないなとこで寝てんのや」
「……は?」
何言ってんだ、と思わず重たい瞼を開くと、四十代ぐらいの女の人が私の顔を覗きこんでいた。え、誰?それに女の人が着ているのは着物…、なんかの仮装大会か? 惠瑠はいまいちこの状況を掴めないでいた。
いや、だって私は電車に乗って帰ろうとして…、というかなぜ今私は此処にいる?女の人の格好からしてまるで時代劇の中にいるみたいだ。しかし、周りでそんな撮影をしているなんて聞いたことないし、それに女の人は京都の方言だ。私の住んでいるのは東京。明らかにおかしい。そして私が寝てた場所もなんだか店と店の間の路地裏みたいなところだった。
―――ちょっと待ってくれよ。普段頭を使わないから理解できていない。とりあえず、
「此処って日本ですよね…?」
何故か現代にいる感じがしない惠瑠は思わずそう聞いてしまった。女の人を見れば案の定、眉間に皺を寄せて、大丈夫か、と言いたいような視線を送られた。あ、なんか私痛い感じ?そんな目で見られても逆に困るっていうか。私も訳が分からないんだよ。惠瑠も眉を八の字にした。
「あんた、何処から来たん?」
「…東京」
「とうきょう?聞いたことあらへんなあ。髪だって色が薄いし…、もしかして異人さんかい?」
「異人…?」
異人というのは外人ということだろうか。確かに惠瑠の髪は昔から色素が薄い。しかし、今どきの子ならそんな子はたくさんいるから珍しくもない。なぜそんなに驚くのだろうか。まさか時代が違うなんてことはないよね?
「今、何年ですか?」
惠瑠は不安になって一応聞いてみる。…なんか怖いなあ。
「何年って…、文久3年だよ」
「文久…」
驚きのあまりそれ以上言葉が続かなかった。人間は本当に驚いたとき、声が出なくなるって本当だったんだ。惠瑠はまさに今その状態だ。文久って、さっきの補習で勉強したところと同じ年だ。てことは何だ?私は時代を戻ってきたっていうのか。
「冗談じゃない!!」
いきなり大声をだし、立ち上がった惠瑠を女は驚いてただ何も言わず見つめた。ありえない、信じたくない、そう惠瑠は思うしかなかった。