2年3組乙女事情
両親が離婚をしていて、母子家庭であること。

母親は、学歴も技術もないせいでパートでしか雇ってもらえないこと。

それでも一生懸命に働いて、兄とあたしを学校へ通わせてくれたこと。

あたしも倒れるほどバイトをしてるけど、家計は苦しいこと。

朝食は78円で手に入る安い食パンの一番薄いスライスのものであること。

リア女へ入ったのは、成績が学年1位ならば学費を全額免除にしてもらえるからだっていうこと。


高校までは成績も良くて、特待生として学費の一部を免除してもらうほどだった兄が

大学受験に失敗して、ひきこもり生活をしていること。





「兄はね、昔は人に優しくて、明るくて、いいお兄ちゃんだったの。
でも、おかしくなっちゃって。もう2年も顔を見てないんだ。
夜遅くまでテレビとかパソコンを使ってるから、電気代も半端なくて。
あたしはケータイも持ってないのにさ」


「うん」


「ご飯もあたし達が作るものは食べずに、勝手にピザとかお寿司とか頼んでるし。
でも、もちろん代金を払うのあたし達で……」


「うん……」


「……あたしが夜中に勉強してるとね、いつも兄の笑い声が聞こえるの。
そんな兄みたいになりたくないし、母親を困らせるのも嫌だから、勉強だって必死にやってる」


「厄介なお兄さんだね。……でも、好き?」


「うん。水色はね、兄が好きだった色なの。だから、あたしは嫌いだけど、この色を身につけてると兄が元に戻ってくれる気がしてね。
バカみたいでしょ?」


何故だか溢れてきそうな涙を堪えて、峯岸美海に笑いかけた。


峯岸美海は、下を向いて呆れた、とぼそっと言った後に、あたしに視線を戻した。


「可哀想だね」
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