2年3組乙女事情
中村さんが開いていた新聞のページを覗き込む。
黒の濃淡で作られたそのページには
あたしが生まれるずっと前に、とっくに絶頂期を終えた歌手が、堂々と両腕を広げていた。
CDのタイトルになってる曲のタイトルは、あたしも聞き覚えがある。
「うるさいよ。あんたには関係ないだろう」
「だから、そんな寂しいことおっしゃらないで下さいよ……」
少し頬を膨らませてそう言うと、中村さんは顔を背けた。
さっきの新聞のページは閉じられてるけど、ページの間にはきっちりと手が挟んである。
「藤堂さん!ちょっと手伝ってもらえるかしら?」
背中から職員さんにそう声を掛けられて、あたしはくるっと振り向いた。
大きな、カラフルな荷物を抱えた職員さんが、あたしに来るようにと目で訴える。
「今行きますっ!」
そう答えて、そのまま職員さんの方へ向かった。
途中で気になって、1度だけ中村さんを振り返る。
中村さんは、さっきの新聞のページをまたじっと見つめていた。
やっぱり好きなんじゃない、あの歌……――――
職員さんに渡された荷物を持ちながら
あたしはさっき見た歌のタイトルを思い浮かべた。