2年3組乙女事情
「ねぇ、中村さん」
「うるさいんだよ。毎日毎日……」
「中村さんとは今日でお別れなんですもの。少しくらい、あたしの我儘を聞いて下さっても良いでしょう?」
「聞くわけないだろう。そんなもん!」
いつものフリータイム。
おしぼりとお茶を配り終わってしばらくしたところで、あたしは中村さんに声をかけた。
1日目と同じ、毒々しい紫色の毛糸で編み物をする中村さんは、完全に機嫌が悪そうに見える。
「今日は聞いていただきます!ほら、編み物は午後からにして、こちらに来て下さい!」
「嫌だって言ってるだろうが!」
「良いからこっちへ来て下さい!ほんの少し動くだけですからっ」
あたしは、中村さんの持つ毛糸の束をがしっとつかんだ。
そのまま、座ってる中村さんに届かないところまで毛糸の束を持ち上げる。
本当はこんなことしたらダメなのかもしれないけど……最後だし、このくらい許してもらえるんだって思うことにする。
うん、大丈夫よ! たぶん!
「中村さん!私からもお願いします。こんなに必死になる舞花なんて、なかなか見られませんよ?」
どこかから睨み合うあたし達を見てたんだと思う。
芽依が、助け舟を出してくれた。
この間のピアノで良い印象を持たれてる芽依の言うことなら、中村さんだって聞いてくれるかもしれない。
それにたぶん、芽依はさっき、あたしが蓋を開けるのを見てたんだと思う……。
「中村さん? 早く早く!」