2年3組乙女事情

にっこりと微笑みながら中村さんを立たせた芽依は、あたしを見て誘導するように促した。



ありがと、芽依……。



あたしは、小さく息を吐いてから歩き出した。



あ、言っとくけど、今のは溜息じゃないわよ?

気合入れたんだから。



「じゃあ、少し付き合って下さいね」



視線をそらしたままの中村さんにそう微笑むと、あたしは黒いイスを引いた。



そのまま、背もたれのない、ふわふわしたイスに座る。



目の前に広がる黒い板に写る自分の顔を見て、あたしはまた小さく息を吐いた。



これが、グランドとアップライトの違いよね……。



あたしは、白と黒の鍵盤にそっと両手を乗せた。



「この曲……」



前奏が始まってすぐにそう呟いた中村さんの声が聞こえて、あたしは思わず頬を緩ませた。



ここは、優しく……丁寧に――――



ゆったりとした前奏が終わる頃、あたしは大きく息を吸った。



「歌まで……」


「舞花、上手……」



呟く中村さんと芽依の声が聞こえたような気もしたけど

あたしはそのまま演奏を続けた。


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