2年3組乙女事情
びっくりして、学生証片手に立ち上がったその人を見つめた。
ワックスで綺麗に整えられた短くて黒い髪に、すっと綺麗な目。
黒いスーツに白いワイシャツ。
青いネクタイをきっちり閉めた姿は、たぶん誰が見ても格好良いと思う……はず。
そんな知り合い、ボクにいたかな?
そう思って頭の中をぐるぐる探ってみたけど、答えが見つかる気がしない。
でも、“ゆい”って……。
「あー、覚えてないか。ほら、団地に住んでた頃よく一緒に遊んでたと思うんだけど……。
俺、梶原航太」
「かじわら、こうた……って、あぁ!」
そっか。
小学校の低学年くらいのことだから、すっかり忘れてた。
「上の階に住んでたこーちゃんだ!」
「そうそう!懐かしいなぁ……。
さすがに顔じゃわかんなかったけど、“唯真”って変わった名前だったからすぐに思い出したよ」
そういうと、こーちゃんはにっこり笑った。
そのまま、ボクにお財布を差し出す。
「引っ越してから全然会ってなかったからびっくりだよ。ピンクのチェックってことは、リア女?」
「うん。今年2年生だよ」
「高校って懐かしいな……。俺なんて、大学3年だよ」
そう言って小さく笑うと、こうちゃんはボクにも歩くように促した。
卵売り場、こっちだから大丈夫だよね……?
隣に並ぶ“大学生の男の人”の空気に少し戸惑いながら
ボクは後に続いた。