2年3組乙女事情



「ゆいが引っ越したのって、確か俺が5年生の時か」


「そうだったかな?あの頃は、班で登下校してたんだよね」



野菜のコーナーをゆっくり進むこーちゃんの後ろで、昔のことを思い出した。



「そうそう。班員も団地の奴らばっかだったから、みんなで寄り道して親に叱られて……」



でも昔と違って、ボクはこーちゃんの顔を見上げないといけないし


昔と違って、ここは公園でも団地でもなくてスーパーだけど。



「懐かしい! 大体、こーちゃんが『遊びに行こう』って誘うんだよね」


「それ、叱られたのは俺のせいだって言ってる?」


「え!? そんなことないよっ」



それでも


慌てて首を振ったボクに、にやりと笑いかけるこーちゃんは、昔と何も変わってないと思った。



ちょっと意地悪で、それでもちゃんとみんなのことを見ながら引っ張ってくれるこーちゃんは


ボクにとっては、テレビの中に出てくる誰と比べても見劣りしないくらいの、完璧なヒーローで、憧れだったから……。



「そういえば、何でこーちゃんスーツなの?大学生って言ってたよね?」



ふと疑問に思って、こーちゃんを見上げる。



不思議そうなボクに、こーちゃんは「あぁ」と軽く呟いてから視線を合わせた。


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