2年3組乙女事情
何のことなのかわからなくて、視線だけでこーちゃんを見上げた。
不思議そうなボクを見て、こーちゃんが微笑みながら頭に乗せた手を離す。
「ゆいが自分のこと“ボク”って言うの」
「聞いてたんだ……あの会話」
何となく気まずくて
あの男の人達みたいに“リア女生”らしくないって、がっかりされたり、可笑しいって思われたりしないかなって
そう考えたら怖くなったボクは、思わず顔を伏せた。
「まぁ、しっかりした場所では良くないかもしれないけどさ……俺だって、就活では“僕”って使うし。
でも昔、ゆいが『今日から“ボク”って言う!』って言ってくれたこと思い出して、懐かしくなったんだよな」
「どういう、こと……?」
「あ、もしかして、覚えてない?」
少し笑いながらそう言うこーちゃんをゆっくりと見上げて、ボクは小さく頷いた。
そんなボクを見て、こーちゃんはにっこり笑った。
「団地に住んでた頃、遊んでる時にゆいが道で結構ひどく転んだ時があったんだよ。大きい石がごろごろあったから、足と手から結構血も出てて……。
相当痛かったんだろうな。ゆいが全然泣き止まなくて、俺、めちゃくちゃ焦ったんだよ」
「そんなことがあったんだ……」
「必死でゆいを背負って帰って、ゆいのお母さんに謝ったんだ。『僕がちゃんと見てなかったせいですみません』って」
「でも、それってこーちゃんは何も悪くないじゃん。ボクが勝手に転んだだけだし……」
昔のことだったけど、何だか申し訳ない。
転んだだけでそんなに迷惑かけるなんて、何やってるんだよ……ボク。