2年3組乙女事情

「そういうもんだよ。
ところで亜希帆、お前はもちろん、家から通える大学にするんだよな?」



にっこりと微笑むお兄ちゃんに苦笑いを返して、机のそばにあるイスに座る。



大学生になったら一人暮らしを……って話はよく聞くけど、ウチのお兄ちゃんにはその概念はない。



何でかって?


それはもちろん、お兄ちゃんが“シスコン”だから。



自分で言うのも嫌だけど、あたしはよくぼーっとしてるし、漢字とか計算とかも難しいことを考えるのは苦手だし、今だって進路についても全然考えてないし、……


結構周りに心配をかけるのが得意な人間に育ってるらしい。



そんなあたしを見て、お父さんとお母さんは「亜希帆のことは頼む」みたいなことを、昔からお兄ちゃんに言い続けていた。



お兄ちゃんがシスコンになったのは、たぶんそのせいだ。


大学を家から通えるところにしたのも、外泊をめったにしないのも、たぶんそのせいだ。



そうは言っても、別にお兄ちゃんがあたしに恋愛感情を持って……みたいな小説的イベントは一切ない。



そこそこ背も高くて、顔もそこそこ良くて、基本的に面倒見の良い性格のお兄ちゃんには、当り前のように彼女がいるから。



……妹としては、いい加減に妹離れでもして、彼女に尽くしてほしいと思わなくもないけどね。



「まだ何にも考えてないよ。大学も学部もなぁーんにも」


「そうなのか? じゃあ、今までの模試では志望校はどうしてたんだ?」


「適当だよ。お兄ちゃんの通ってるとこ書いたり、近くの名前聞いたことあるとこ書いたり……」


「じゃあ、そこで良いじゃん。そうすれば、俺はお前とずっと一緒にいられるわけだし」


「はいはい。それ、気持ち悪いからね」
< 142 / 278 >

この作品をシェア

pagetop