2年3組乙女事情
「そういうもんだよ。
ところで亜希帆、お前はもちろん、家から通える大学にするんだよな?」
にっこりと微笑むお兄ちゃんに苦笑いを返して、机のそばにあるイスに座る。
大学生になったら一人暮らしを……って話はよく聞くけど、ウチのお兄ちゃんにはその概念はない。
何でかって?
それはもちろん、お兄ちゃんが“シスコン”だから。
自分で言うのも嫌だけど、あたしはよくぼーっとしてるし、漢字とか計算とかも難しいことを考えるのは苦手だし、今だって進路についても全然考えてないし、……
結構周りに心配をかけるのが得意な人間に育ってるらしい。
そんなあたしを見て、お父さんとお母さんは「亜希帆のことは頼む」みたいなことを、昔からお兄ちゃんに言い続けていた。
お兄ちゃんがシスコンになったのは、たぶんそのせいだ。
大学を家から通えるところにしたのも、外泊をめったにしないのも、たぶんそのせいだ。
そうは言っても、別にお兄ちゃんがあたしに恋愛感情を持って……みたいな小説的イベントは一切ない。
そこそこ背も高くて、顔もそこそこ良くて、基本的に面倒見の良い性格のお兄ちゃんには、当り前のように彼女がいるから。
……妹としては、いい加減に妹離れでもして、彼女に尽くしてほしいと思わなくもないけどね。
「まだ何にも考えてないよ。大学も学部もなぁーんにも」
「そうなのか? じゃあ、今までの模試では志望校はどうしてたんだ?」
「適当だよ。お兄ちゃんの通ってるとこ書いたり、近くの名前聞いたことあるとこ書いたり……」
「じゃあ、そこで良いじゃん。そうすれば、俺はお前とずっと一緒にいられるわけだし」
「はいはい。それ、気持ち悪いからね」