2年3組乙女事情
何があっても、涙なんてめったに流さなかったありすが

何に“特別さ”を見出だしたんだろう。



映画の予告の、どこに?


KANAの恋歌の、どこに?



そう思って考え出したけど、すぐにやめた。


考えたって、わかるわけがない。



だって、あたしはありすじゃない。



そう割り切ってみたけど、何かもやもやする――――



ふと黒板の方を見ると

峯岸さんの現代語訳を、先生が頷きながら聞いているところだった。



ちらっと、後ろにいる峯岸さんを見る。


表情を崩さない峯岸さんは、本当に優秀な人なんだなって思う。



悔しいけど、ありすにはお似合いだ。



……てか、“悔しいけど”って何よ、あたし。



訳の意味なんてよくわからなかったけど、先生の表情からその内容の正しさと素晴らしさが伝わってきた。



「ありがとうございます。現代語訳、ばっちりでしたよ。
作者の東は、この歌を通して景色の美しさを伝えていますね」



授業なんて全然聞いてなかったから、そのアズマって人がどんな歌を作っていたのか、よくわからない。



ただ、ぼーっと聞いていた峯岸さんの訳によると、これは、秋の夕暮れを歌ったものらしかった。
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