2年3組乙女事情
もちろんね、途中で何回も「もう切らないで」って言おうと思ったの。
でも茶色い髪のお兄さんの中には、何か出来上がりのイメージとか、こだわりとかがあったみたいで……
その真剣そうな表情を見たら、何も言えなくなっちゃったんだよね。
「他の高校ならアリだけど、ウチでそのショートは目立つかもね。
何て言うの? 丸みたいなショートはよく見るけど、清夏のはひし形ってゆーか……」
「確かに、襟足こんなにすいて欲しくなかった」
「だったら、それをちゃんと言わないとダメじゃん」
「うーん……」
はっきりした返事をしないあたしを見て、七瀬が呆れたみたいに静かに言った。
「清夏。あたしは、相手の気持ちを考えて、相手を立てようとするのは、清夏の良いところだと思う。
でも、大事なことはちゃんと言わないとダメだよ。相手ばっかりじゃなくて、自分のことだって気遣ってあげないと」
「うん、そうだね」
七瀬には、こんなこと言わせてばっかだなぁ……。
相手の顔色を窺って、自分の言いたいことを言えないのはあたしの悪い癖だと思う。
何かを頼まれると断れなかったり
何かを取り合いになっても相手にすぐに譲ったり……
町で配ってるティッシュとかチラシとか、絶対にもらっちゃうし。
あたしのそんな性格をわかってか、一緒にいる時は七瀬がサポートしてくれるし、今日みたいに注意だってしてくれる。
……その頻度が高すぎて、ちょっと申し訳ない気もするんだけど。
そう思ってることさえも、七瀬の好意を無駄にしちゃうんじゃないかって思って言えない。
「おはようございます」