2年3組乙女事情
「どうぞ」
「どうも」
「それじゃあ」
放課後。
言われた通りにリアクションペーパーを届けたあたしは、軽く頭を下げてから社会科演習室を出ようと歩き出した。
椅子に座ったままで動く気配はないけど、今コイツと長時間一緒にいるのはいろんな意味で危ない。
「もうすぐテストだけど、調子は?」
そんなあたしの考えなんて無視するみたいに、瑤が後ろから声をかけた。
「まぁまぁです」
「それは、いつも通りってことか?」
「そうとも言いますね」
「ふーん……」
本当、勘弁してほしい。
コイツが何を考えているのか、あたしにはよくわからない。
穂高瑤。
教員になって3年目のコイツは、リア女で社会科を教えてる。
少しウェーブのかかった短い黒髪。
外で運動してるわけでもないのに、少し焼けた肌。
男らしいとは言えないけど、はっきりとした顔立ち。
ジャージでもラフな格好でも許される空間の中で、いつも綺麗めのシャツやジャケットを着てるコイツは、それなりにきっちりした性格なんだと思う。
若い男性教員
その肩書も後押しするから、“社会の穂高先生”は人気だ。
「お前の“いつも通り”って、また社会だけ壊滅的に悪いってことじゃねーか。しかも、俺が今教えてる現代社会なんて最悪」