2年3組乙女事情
結婚する前まではお母さんのことを名前で呼んでたはずの聡さんが“お母さん”って単語を使うのには、きっと聡さんなりの意味があるんだと思う。
そうは思う。
「それより、仕事は?」
「うーん……なかなか難しいみたい。もう若くないしね。
でも、いつまでも家にばっかりいるつもりはないから安心して。こうやって七瀬ちゃんとご飯が食べられるのは嬉しいけどね」
にっこりと笑ってそう言うと、聡さんは餃子をつまんだ。
何だか居心地が悪い気分になって、さっとお茶碗に手を伸ばす。
少し前に、侑が言ってたことを思い出してみる。
最初の印象がマイナスだったから、私の中で聡さんがプラスにならないから
私達はこんな風に、不器用な家族を続けてるってこと?
でもそうだとしたら、この疑似家族みたいな状態は、いつになったら終わるんだろう……。
私だってもう高校2年生だ。
聡さんほどじゃないけど、もうただの子どもってわけじゃない。
それに、もし大学がこの家から通えないような場所になったら、聡さんと打ち解ける機会は確実に減る。
「美味しいよ、ご飯。お母さんも最近、ここまで手の込んだものは作る時間ないみたいだったから」
とりあえず、小さく言ってみる。
ちらっと聡さんに視線を送ると、少し目を見開いてからまたいつもの笑顔を見せてくれた。