2年3組乙女事情
すりむいた膝も、腕も、どうでも良い。



「な、なせ、ちゃん……」


「聡さん!? ちょっと!何で?」



どこからかだらだらと血を流す聡さんを見て、私は思わず駆け寄った。



「ごめんね、足……すりむいちゃったよね」


「そんなこと良いから!今救急車も来るから、静かに待ってて!」


「僕はこれでも、お母さんの旦那さんだし。七瀬ちゃんのお父さんだからさ」


「黙ってってば!」



赤信号になりかけてたのか、なってたのかはよくわからない。



でも、横断歩道を渡ってる私に車が近づいてきて……


はねられかけた私を聡さんがかばってくれたことは確かだ。



……そのおかげで、聡さんがボロボロになっていることも――――



「やっぱり、娘のことは守らないとね。……1メー、トル……」


「良いから!
ちょっと、しっかりしてよ!何か言ってよ!ねぇ!」



死ぬの? このまま?


冗談じゃない!



私はまだ、何も……何もこの人に、言いたいことを伝えてないのに。



勝手に守って、勝手に言って、勝手に死ぬって……


そんなドラマみたいなことが、現実にあってたまるか!



「起きてよ……ねぇ! お父さん!」



乾いた、小さな叫び声が、ざわざわとした道路の隅っこに消えた。
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