2年3組乙女事情
「え?」
びっくりして目を見開いた聡さんをちらっと見てから、私は何も言わずに背を向けた。
そのまま病室を出て、白い廊下を歩く。
病院って、妙に明るかったり暗かったりするから、ずっといると時間の感覚がなくなっちゃう気がする。
そのせいかな?
私自身の感覚も、少しいつもとは違う気がして……
ちょっとふわふわする。
その原因は、もしかしたら他にもあるのかもしれないけど……―――
「あっ、百瀬さん!ちょっと良いですか?」
“百瀬七瀬”
相変わらず、俳句でもラップでも何でもないくせに無駄に韻を踏んじゃった、格好悪い名前だと思う。
3文字になっても良かったから、“奈々”とか“菜々”とかを使ってくれればまだマシ
だったのに……。
だけど
いつかこの苗字を手放すことになるその日まで、だいぶ照れくさいけど胸を張って自分の名前を名乗りたい。
だって、この名前は……――――
「はい! 何ですか?」
看護士さんに呼び止められて、私は笑顔で振り返った。
~16番 百瀬七瀬 END~