2年3組乙女事情
そう言うと、井上律は小さく笑った。
弱弱しい空気と茶髪パーマのバランスは気持ち悪いくらいに最悪で、あたしまで思わず視線を落としたくなる。
「じゃあ、あの後は何もなかったってこと?」
「なかった!あの後で本気で耐えられなくなって、振り払ったし」
がばっと顔を上げてそこだけ強調した井上律が、少し面白い。
メールはたくさんもらってた。
何回か顔を合わせたこともあった。
でもよく考えたら、井上律とこうやってちゃんと話すのは初めてかもしれない。
遊び人ってイメージだったけど、話してみるとコロコロと表情を変えたり、自分の考えを一生懸命話そうとしたりする辺りが印象に残る。
今までより、少し良いイメージが持てそうなくらいだ。
「で? あたしに話したいことって何?」
わざと、静かに視線を合わせる。
井上律の視線は少しだけ揺れてから、まっすぐにあたしをとらえた。
「言っただろ? 俺、本気で瑛梨奈ちゃんと付き合いたいと思ってるから。
前みたいに他の奴と遊ぶのはやめた。連絡を取ってもいない。この間椿駅で会った時に見たことも、俺が瑛梨奈ちゃん以外にも声をかけてる証拠だって勘違いされるのだけは嫌だった」
井上律は、静かに息を吐き出した。