2年3組乙女事情
「話したかったのはこーゆーこと。だからメールも電話もウザいくらいにしたし、学校にも行った。
……まぁ、学校はあの若い先生に追い出されたけど」


「その先生……穂高先生には、何て言われたの?」


「この学校の校門に立ちたいなら、いろいろ“普通”じゃいけないことがあるって。それを受け入れられないなら、ここに来る資格はないってさ」



そう言って小さく笑うと、井上律は自分の鞄に手を伸ばした。



少しくたっとなったブルーの鞄から、白いビニール袋が顔を出す。



「何? それ……」



呟いたあたしの声に返すみたいに、井上律が袋の中身を取り出して机に並べる。



「あの先生に言われた後、薬局で買ってきた。これで、俺の髪染めて」


「え?」


「俺、リア女の校門に堂々と立ちたいから。堂々と、瑛梨奈ちゃんの隣に立つから。だから、俺の髪染めて」



真剣な表情でカラーリング剤を差し出されて、思わずそれを受け取る。



あたしはどうすれば良いんだろう?


大人しく井上律の髪を染めて、大人しく井上律と付き合えば良い?



「瑛梨奈ちゃんが、染めて。とりあえず、染めて」


「染めて良いの?」


「あぁ。俺、あの先生と違ってガキだから他に何すれば良いのかわかんねぇけどさ。
これが“普通”を抜ける手段のうちの1つだってことはわかるから」



力強く頷いた井上律を見て、あたしはそっと手を伸ばした。
< 241 / 278 >

この作品をシェア

pagetop