2年3組乙女事情
小さくそう呟いてから、すっと息を吐き出す。
そのまま、駅前だなんて気にしないで、思いっきり両手を突き上げた。
「うおっ」
肩にかけた鞄の重みが、首を攻撃してくる。
ま、こんなことも……あるか。
思わず小さく笑ったあたしの横を、知らないカップルが眉をひそめながら通り過ぎる。
もしも次に、あんな風にここを誰かと歩く時がきたら……
あたしはその人の家に、私物を置くような女の子になれたりするんだろうか。
着替えのジャージをためらいもなく置けるようになったりするんだろうか。
真っ黒なエナメルの……
パンプスくらいなら、置けるようになったりするのかな。
そうやって少しくらいは、可愛げのある人間になれるんだろうか。
そんなことを少しだけ考えながら……
気分を変えようと、思いっきり空気を吸い込んだ。
それが体の奥の方まで遠慮なく冷やしていったのを感じて、思いっきり後悔する。
「こんなとこ、いつまでもいられないやっ」
鞄をしっかりと肩にかけ直しながら、ピンクのスカートをひるがえす。
あたしは、明るい駅の中に向かって足を進めた。
~19番 渡部侑 END~