2年3組乙女事情
「今日……は、最後だから、ちゃんとお礼を言おうと思って。
この3日間、本当にありがとうございました。奥間さんのおかげで、修学旅行、すごく楽しかったです!」



少し下がった眼鏡の隙間から、奥間さんの顔を覗く。


視力と涙のせいで、視界がぼやっとした。



「どういたしまして。こんな風に言われると、何か照れるな」


「昨日もばたばたしてたし、ちゃんとお礼言う時間なかったなって……。
何かお礼に渡せたら、とも思ったんですけど、何を渡せば良いか思いつかなくて……」


「そんなの良いから。俺も楽しんでたし。
これだと、明日からちょっと寂しくなるな」


「え……?」



まっすぐ前を見ながらそう言う奥間さんを見て、思わず目を見開いた。



そんなこと言われたら、変に期待しちゃうじゃん……――――



「あ……」



小さくつぶやく奥間さんの視線の先に、私も目を移す。

そこには、戻ってくるみんなの姿が目に入った。


もう、こんなに時間が経ってたんだ……。



「もうそろそろだな」


「はい」



わかってはいたけど、いざ瞬間になるとやっぱり痛い。


目が? 違う。


心が……――――



「あのさ、お前のこの住所、本物?」


「へ?」



いつの間に取りだしたのか、奥間さんの手には開かれたケータイがあった。


ディスプレイには、私の名前。

その下には、電話番号でもメールアドレスでもなくて、ウチの住所が表示されていた。



「そうですけど……どうしてですか?」
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