2年3組乙女事情
後ろから聞こえた声に、手を止めて振り返る。


そこには、鋭くあたしを睨みつける、昨日と変わらない中村さんの姿があった。



「そんな伴奏じゃ、気持ち良く歌えるもんも歌えないよ。息が詰まる。
あ!あんただろ、えーっと……小松さんだっけ?」


「え?」



戻ってきた芽依を、中村さんが指した。



不思議そうな顔をした芽依が、首を傾げながら近づいてくる。



「あんたが弾いてくれよ。ピアノと言えば、あんたなんだろ?」


「でも……舞花が弾いてたんじゃ……?」


「この子じゃ話にならないよ。下手くそすぎて、頭が痛くなる」


「一緒に練習したこともありますけど、彼女はそんなに……」



戸惑いながらも必死で声を張ろうとする芽依の前に、あたしは左手を差し出した。


眉の間に皺を寄せる芽依を見て、にっこりと微笑む。



あたし、ちゃんと笑えてるわよね……?



「芽依、ここは代わりにお願い。あたしは、あっちを手伝ってくるわ」



ぎぎっとイスをずらして立ち上がった。


そのまま芽依の肩にぽんっと手を置いてその場を離れる。



振り返らないで歩き続けてから、あたしはそっと、柱の陰に隠れた。



ピアノはもう、さっきの曲を奏で始めてる。



「……そこまで下手なわけじゃ、ないんだけど」



あたしは、小さく笑ってからまた歩き出した。


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