2年3組乙女事情
普段の態度とか、評判とかのイメージで、勝手にもっと低いと思ってたけど。
授業で問題に答える時も、もう少し低かった気がする。
「あたしは、ピアノなんて格好良いもの習ったことないから、詳しいことはよくわかんないんだけど……。さっきの藤堂さんのピアノ、別に悪くなかったと思う。
むしろ、上手かったと思う」
「そう……」
「でも、何て言うか……小松さんのピアノは、藤堂さんのよりもきらきらしてた。藤堂さんは、少し……必死で弾いてる感じがしたから」
「貴重な意見をありがとう」
頭が良いと、耳まで良いのかしら……?
雨宮さんの言うことは、すごく的を射てると思う。
実際に、あたしもそう思ってるから。
ピアノを弾きたくなかったのは、そのせいだから……――――
「そんなに、意地を張らなくても良いんじゃない?
もう少し自由に、まっすぐ相手と向き合ってみれば良いのよ。……ま、それができたら苦労しないんだけど」
小さく笑うと、雨宮さんはまた歩き出した。
足音が、少しずつ遠ざかる。
「ありがとね。……雨宮ありす」
だから、何でフルネームなのよ? あたし。
そう思って溜息を吐いたのと同時に、雨宮さんの軽い笑い声が響いた。
「フルネームはやめて。ありすで良いから……舞花」
「了解よ、ありす」
小さく跳ねた雨宮……ありすの言葉に合わせて、あたしも笑った。