主婦だって恋をする

「もしもし?」


涌井さんは電話に出ながら、俺に口パクで“カレ”と示した。


……例の既婚者の彼からの電話か。



「えっ……?なに、それ……」



急に彼女の表情が曇り、声のトーンも下がった。



「……嘘ついてたの?」



……なんだか深刻そうだ。

立ち聞きしてるのも趣味が悪いと思って俺がその場を離れようとすると、涌井さんに腕を掴まれた。



「私は話すことなんて……!!」



俺の腕を掴んだままの手が、かすかに震えている。



「……わかった、待ってる」



電話を切った彼女は、真っ赤な目をして俺に言った。



「……今日、家に来て」



言い争いの一部始終を見てしまった俺は、その誘いを無下に断るなんてできなかった。


< 122 / 212 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop