主婦だって恋をする
寝室のクローゼットを開けて一泊分の洋服をボストンバッグに詰めていると、歯ブラシをくわえた夫がドアから顔だけ出して言った。
「成美、ベッド使っていいから」
「……あなたは?」
「ソファで寝る」
「……ベッドは広いんだし、私は別に一緒でも構わないけど」
食事もままならない彼のベッドまで奪うのは申し訳なくて、そう提案した私。
「……俺が構うんだよ」
夫の呟いた言葉は泡立った歯磨き粉のせいでよく聞き取れなかった。
「おやすみ」
今度はちゃんと聞こえたから、私もおやすみ、と返す。
そのまま部屋を出ていった夫は寝室に戻ることはなく、私は広いベッドに一人でもぐり込んだ。