主婦だって恋をする
慌ててトイレの前まで行くと、ちょうど出てきた彼女と鉢合わせた。
「な……何?」
「いや…なかなか来ないから逃げられたかと思って」
「……これ、見てたの」
彼女はトイレのドアの内側に貼ってある世界地図を指差した。
「あぁ…それか。その地図眺めて、いろんなとこ行った気になるのが好きでさ」
「それ、分かる。私も……」
彼女が言いかけたとき、キッチンからジュワー…という音が。
「やっべ!吹きこぼれたかも」
焦って戻ると案の定、鍋からこぼれた茹で汁がコンロを汚していた。
あーあ。せっかく料理できる男
アピールしようと思ってたのに……
俺は火を止め、がっくり肩を落とす。
「……茹で過ぎちゃった?」
いつのまにか側に来ていた彼女が、トングを手に取り鍋から器用に一本だけ麺をすくった。
ふーふー、ちゅるるっ。
「……丁度いいよ。アルデンテ」
俺は麺が吸い込まれていく彼女の口元に目を奪われて固まってしまった。