主婦だって恋をする
「俺、一番後ろの端で寝るから、成美は祥子ちゃんの隣行ってきな」
夫がそう言ってくれたので、私は祥子の隣の座席に座った。
すると祥子は辺りをキョロキョロ見回してから、私に耳打ちする。
「彼、許してくれたの?」
「うん……嫌がってはいたけど」
私も囁くような声で答えた。
「まあ良かったね。今日は楽しもうよ!せっかくの温泉だし」
祥子はそう言って鞄から出した飴玉を私に差し出した。
ありがとう、と受け取って口に放り込むと、慶にもらったキャンディの指輪と同じ味がして、私はうろたえた。
あの日の甘い戯れの記憶までも、一緒に蘇ったからだ。
ふと夫が気になって後ろの様子を覗いたけど、彼は気持ちよさそうに眠っていた。
今日は、慶のことは考えないようにしよう……
そう心に誓って私はイチゴ味の飴を思いきり噛み砕いた。