主婦だって恋をする
もうここへは来ない
『――その地図眺めていろんなとこ行った気になるのが好きでさ』
その言葉が意外だった。
なぜなら、私も地図を見るとき
同じことをして楽しむ。
もしかしたら彼はそんなに悪い人じゃないかもしれない。
単純にそう思って、慌ててキッチンに戻った彼を追った。
「茹で過ぎちゃった?」
コンロの前でひどく落胆してる彼に声をかけた。
張り切って作ってくれていたみたいだからショックよね、きっと……
鍋を覗くとパスタ自体は何の問題もなさそうだったから、私は茹で加減を確認した。
「丁度いいよ。アルデンテ」
彼をフォローするつもりで言うと、何故だか顔をじっと見られた。
家で作ってみたいと言うと、彼に旦那のためかと聞かれた。
“――旦那”
その存在を、私はこの家に来てから初めて思い出した。