主婦だって恋をする
「ごめんなさい、連絡先は……」
「――――名前」
そうだ、私たち……お互い名乗ってもいなかった。
でも、教える必要なんて……
「俺は、佐久間慶」
さくま、けい……
覚えたい訳じゃないのに、頭の中でその五文字が行ったり来たりする。
「私、は……」
言うか言うまいか悩んで口ごもっていると、肩を掴まれて強引に振り向かされた。
「名字は、いいから……」
そう言われると、私の口は勝手に開いた。
「………成、美」
「なるみさん……?」
彼が復唱すると、自分の名前なのに特別な言葉のように感じた。
「来てくれて、ありがと。楽しかった」
帰り道気をつけてね、と何でもなかったように彼は私を送り出した。