主婦だって恋をする
慶が来たら言おうと思ってたことがたくさんあった筈なのに……
私はどれも言えなくて、少し疲れの色が見える彼の顔を見つめるだけだった。
「これ、返すね」
慶がズボンのポケットから何かを取り出して、私の手に握らせた。
「…………?」
ゆっくり手を開くと、一緒に暮らし始めてからずっと外したままだった、銀のリングがそこにあった。
「……姫島成美さん」
その他人行儀な呼び方は、私の胸を詰まらせた。
彼の前ではいつも、ただの『成美』という女で居られたのに……
「守ってあげられなくて、本当にごめん……」
深々と頭を下げた慶。
「あなたは……悪くない」
それだけ言って、私は布団で泣き顔を隠した。