主婦だって恋をする
壊れた堤防
「……ごめん、遅くなった」
病院の質素な夕食が運ばれて来た頃、夫が息を切らせながら病室にやってきた。
「大丈夫よ、仕事お疲れさま」
近づいてきた彼の手には、頼んでいた荷物と小さな花束があった。
「これ、お見舞いには向かないらしいんだけどさ……俺の、気持ち」
透明のフィルムの中に束ねられていたのは、ランに似た薄いピンク色の花。
「これ……シンビジウム」
確か、そんな名前だった。
誕生日にもこの花が入った花束を彼がくれて、その花言葉が……
「花言葉は、誠実な愛情」
はっきりと、夫が言った。
あのときわからなかったその意味が、今になって解った。