主婦だって恋をする
“涌井さん”って、確か……
『でも、その夜なんだ。涌井さんが自分の人生に見切りつけたの……』
喪服姿で泣いた慶と、抱き締めた彼の服にしみついていた線香の香りが蘇った。
彼女の所へ行くって、どういうこと――……?
今度はさざ波どころでは済まなかった。
私はパジャマを脱いで、退院するときに着ようと思っていた服に着替えた。
お財布と携帯だけを持って廊下に誰もいないことを確認すると、私は病室を抜け出した。
ナースステーションの前を横切るときが一番緊張したけど、忙しそうな看護師さんたちは私のことなんて見ていなくて……
私は誰に咎められることもなく病院を出ることに成功した。