主婦だって恋をする

「……さよならをしてきたの」



私はゆっくりと窓際の夫に近づき、正面に立って彼を見た。



「私……あなたになんて謝ればいいか……」



ずっと待っていてくれた優しい瞳は、今日も変わらない。

私は、この瞳を愛して、信頼して……だからこの人の妻になったんだ。

そんなことを、今さら思い出して涙が溢れる。



「謝らなくていいからさ……俺に、もう一度……」



その言葉の先をなかなか継がない彼。

少し視線をさまよわせた後、はにかみながら言った。



「もう一度、俺に恋して下さい」



その言葉を聞いて、まるで二度目のプロポーズを受けたような気持ちになった。

私たち、きっとやり直せる。

もう一度、私はこの人を好きになりたい。


私は姿勢を正すと夫の手を握り、はい、と言って微笑んだ。


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