主婦だって恋をする

「そういえば、これ……」



俺は成美に初めて会った日の彼女の忘れ物を、寝室から持ってきた。



「……忘れてたわ」


「成美のこけ方、すごかったな」



俺がからかうと、成美は頬を膨らませた。



「……あのときは嫌いだったわ、あなたのこと」


「今は?」


「そうやってわざわざ聞くところが嫌い」



俺は吹き出した。


……あの時は嫌われてもいいと
思っていた。


嫌いと意識すれば、自分の意思に反して成美の脳内は俺のことばかりになる。

それを利用して成美の心に入り込んでやろうという俺の作戦に、成美はまんまとはまってくれたわけだ。


< 58 / 212 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop