主婦だって恋をする
不倫という言葉
四月に入って大学の授業が始まった。
誕生祝いをしてから成美に会っていなかった俺は、ある日大学から帰ってみると玄関に成美の靴があるのを見つけて嬉しい反面、悔しさから舌打ちをした。
……今日の夜はバイトが入ってるから一緒に居てやれない。
「――成美?ごめん、俺これからバイトが……」
言いながらリビングに行ってみると、成美は部屋の隅で体育座りをしていた。
「あ……おかえりなさい」
振り向いた彼女の表情は、明らかに暗かった。
「どうしたの?こんなとこに座り込んで……」
持っていた鞄を置いて、成美の隣に座った。
「私たちの関係って……世間でなんて言う?」
焦点の定まらない虚ろな目で成美が言った。
「……恋人」
「私……夫が居るのよ?」
「知ってるよ。……俺たちは不倫だって言いたいの?」
俺が訊くと、成美は静かに頷いた。