主婦だって恋をする
「ねぇ……お願い、待って」
「待たない」
「……どうしたのよ?」
その問いかけには答えず、夫は次々と私の服を脱がせていく。
「成美……」
突然彼が動きを止め、大きく息を吸い込んだ。
「…………?」
視線で次の言葉を促すと、しばらく間を置いてから彼は瞳を切なく潤ませて言った。
「慶って……誰」
……その言葉は私の心臓を尖った刃物のように貫いた。
慶って……誰?
けい……
それは、私の……
何か言おうとしても、私は金魚みたいに口をぱくぱくすることしかできなくて……
夫はそんな私を見て、傷ついた表情を浮かべた。
「……解った。もう何も言わなくていい」
呆然としたままの私に一度だけゆっくり口づけた夫は、乱れた着衣を直して寝室の扉の向こうに消えた。
私は床に仰向けになったまま、玄関の照明をただぼんやりと見つめていた。