主婦だって恋をする
「成美が誰かを想ってたのは、薄々、解ってた……だから覚悟はしてたんだけど……
実際、彼からのメール見たら思ってたよりずっと、つらかった」
「……ごめんなさい」
「仕方ないよ。人の気持ちは鎖に繋いでおけないから。でもさ……成美」
夫はそう言って、私を抱き締める腕に力をこめた。
「……俺、離婚したくない」
「私の心が戻ってこなくても……?」
「戻って来るって信じてる……」
私は、この人に愛されている。
大きな大きな愛が、私を包んでくれている。
それなのに、私の頭に慶と別れるという選択肢は、浮かばない。
たとえ離婚はしなくても……距離を置くことは、必要だと思った。
「私……しばらく、彼と暮らす。それで自分の気持ちともう一度、正面から向き合ってみる」
私がそう告げると、夫はもう一度強い力で私を抱き締めてからゆっくりと私を解放した。
「俺……待ってるから」
振り向くと、彼の目はうさぎみたいに赤くなっていて……
私は、夫を深く傷つけた罪悪感から目をそらすように、キッチンを無言で後にした。