少しばかり性格が乱雑……、いや、お転婆な橙妃だが、彼女は他の誰よりこの国を、この国の民を愛している。

 そのことを朱国王は知っていた。彼女を見ていてもよく分かるが、何より王自身がそうなのだ。国を民を愛しているからこそ、娘も同様であることがよく分かる。
 それを逆手に取るわけではないが、「卑怯かな」と思いながらも、橙妃に言った。


「お前は、この国を愛しているのだろう?」

「くっ……! そ、それとこれとは」

 別問題、と橙妃が言うより先に朱国王はとどめの一言を口にした。

「橙妃、民のためだ」




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 その日、穏やかな午後。朱国の国民は城から『バカヤロー!!』と叫ぶ声を聞いたとか聞かなかったとか。






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 さて、舞台は再び静国に戻る。

 静国城内。静国の皇子である紅は、机に片肘をつき、思案に暮れていた。一度、結婚をするとは認めたものの、結婚をしてしまっては国王になるのも(多分)時間の問題。国王になってしまっては『姉上』を守ることができない!

 というか、姉上とお会いする時間がなくなる。お話する時間もなくなる。姉上を拝見することも稀になる。それは勘弁……というか、絶対阻止したい。




 ……そう。紅は世に言うシスコンだったのだ。


「くそっ! どうすればいいんだ! いっそ、朱国を焼いて焼け野原にしてしまうか?」

 いや、それだと姉上が悲しまれるし。なにより、そんな事したら、国民が黙っていないだろう。
 そして、最悪姉上も糾弾されるなんてことに……

「なったら、そいつら全員、八つ裂きにしてやる!」

「紅様、そんなに喧嘩っ早いとモテませんよ」

「うっせぇ! ていうか、何でテメェも李黄もいきなり現れるんだよ!」

 突っ込みのために(?)現れたリョクユに、紅はヤケクソのような状態で突っ込みを入れ返した。

 リョクユは、世の中、謎の一つや二つ、あったっていいじゃないですか、と笑いながら言って仕事に戻るため、紅の部屋から出ていった。

 またもや一人になった紅は、本当に何しに来たんだよ、と疲れたような口調で呟く。
 何しにきたと言われれば、紅いじりのため、としか言いようがない。むしろ、それしかない。
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