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「ちょっと待てよ! いくらなんでもこの展開は、早すぎるだろ!」

 静国の城で紅の声が鋭く響き渡った。朱国の姫に決め手から三日。
 早くも橙妃の結婚承諾の話が伝わったのだ。

 それだけではない。同時に、結婚式の日も決められ、式は一週間後だと言われたのだ。


「一週間後だと……? 早すぎる……」


 まさか、そんなに早くいろいろなことが決まっていくとは思っていなかった紅は、自分の誤算に大きく舌打ちをした。

 結婚式の準備が今、国中を挙げて進められているらしく、いつも以上に人の出入りが多い。


 だからといって一週間とは……。


 これも全て胡散臭いにっこり男、リョクユのせいに違いない。

 婚約者が決まる前から、やつは異様に機嫌が良かった。
 気味は悪かったが、興味がなかったので、放置していたのだ。

 だが、その様子を思い返すと、その時から既に下準備を始めていたのだろう。



 ああっ、くそ! なぜ、気付けなかったんだ!


 しかし、決まったことに今更口出しはできない。いつもの国内での話なら別だが、今回は国家間の問題。

 下手に口出ししようものなら、国家間の仲がギクシャクしないわけがないのだ。



 どうしようか、と考えている間に早々と時は過ぎて行く。

 結局、なんの良いアイデアも浮かばず、悶々悩むだけで結婚式の日を迎えることになった。


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 朝、紅は李黄によって爽やかな眠りから叩き起こされた。
 皇子の部屋に勝手に入っていいのか疑問に値するところだが、そこは『お友達』ということで李黄は許されている。

 両者『友人』と思っているかは別として。


 さて、眠りから起こされた紅は、起こしたのはどいつだ、と瞼を上げる。
 と、李黄の顔を見てあからさまに不快な顔をつくり、舌打ちした。

「わ! 紅、それひっどいなー! せっかく起こしにきてあげたのに!」

 李黄は両手を腰にあてて、頬を膨らませる仕草を取る。
 しかし、目が面白そうに笑っているところを見ると、そう怒ってはいないようだ。


 なんだよ、と不機嫌そうに呟く紅に李黄はこう告げる。


「なんだよもなにもないよ。今日、結婚式でしょ?
だから、起こしに来てあげたんだよ。だって、みんな怖がって起こそうとしてくれないじゃん?

 あ。あと、紅の結婚を祝いに紫蓮様がいらっしゃるんだって聞いたから」

 教えてあげに来た、と言う前にベットから、紅は跳ね起きた。
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