色
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「ついに着いてしまった……」
「橙妃様、女性らしい言葉を遣ってくださいね。あと、ヴェール降ろしてくださいね」
「ついに着いてしまった……わ」
同じ台詞を使おうとした橙妃だが、侍女に睨まれたために、仕方なく最後に『わ』を付けて、女の子らしさをアピールしてみた。
そんな橙妃に侍女は、気を付けてくださいね、と釘をさす。
三日ほど前に静国に着いてはいたものの、準備で静国も朱国もバタバタしていたため、城に入ったのは今日が初めてだ。
式は、静国で一番大きな式場で行われることになっている。が、そこに向かう前に紅と橙妃は一旦、顔合わせをすることになっていた。
それぞれの国の利益のために結婚を強いられた二人は、お互い、性別と名前しか知らされていない。
「紅様、朱国皇女の橙妃様が参られました」
リョクユはいつの間に着替えたのか、いつもの簡易的な和服ではなく、きちんとした神官の正装をしている。
神官という立場上、本来ならばいつも正装しなくてはならないはずなのだが。
まあ、そこはリョクユなので、何かしら理由を付けては、簡易服を来ているのだろうが。
「あ、そう」
リョクユの言葉に、紅は興味なさそうに目をそらす。紅はあくまでやる気ゼロのようだ。
そこでリョクユは笑顔を崩さず、えいっ、とわざわざ声を出して紅に『でこピン』をしてみた。
あまりにも素速い『でこピン』であったため、紅は避けきれなかった。
素早い上、意外にも威力のある『でこピン』の痛さに、紅は思わず額を抑えて屈み込んだ。