「よかった。間に合ったのね……」


 薄い紫の髪に濃い紫の目を持つ紅の姉、紫蓮は大きく息を切らして式場へと入ってくる。
 紫蓮着物の裾を抑えながら走ってくるのに続き、後ろから何人もの人間が慌てて入ってきた。

 結婚式を見に来ていた国民や、外国からきた人間たちが一斉に黄色い声を飛ばす。

 耳に痛いくらいの嬉しい歓声。それと同時に、何人か仕切られた線から式場へと入ってこようとしてくる。
 勿論、すぐに衛兵たちによって阻止されるが、それでも彼らの興奮は収まらない。

 今まで困惑して結婚式を見守っていたのが嘘のようだ。



 紫蓮はその容姿と性格から、この国のアイドル的存在となっている。しかし、本人が病弱なため、いつもはこの国の田舎で静養しているのだ。

 彼女はその年々の、めでたいことがあった日や、何かしらの記念日・式典などにしか顔を見せなかったため、噂が噂を呼び、国民からの人気はさらに上昇している。
 また、そんな状況のためか、静国以外の国にもその人気は伝わっていた。


 顔を真っ赤にして姉上を走らせるとは何事だ!? と怒り狂い、怒鳴り散らしている紅。しかし、その隣では、橙妃がぽーっと紫蓮に釘付けになっていた。


 しばらくして、ようやく事態が落ち着いた頃。

 一旦、今までにあった式の流れを中断し、紫蓮は紅に結婚おめでとう、と祝いの言葉を贈った。
 紅は『結婚』という単語に一瞬、笑顔を凍らせたものの、すぐにありがとうございます、と姉に応える。


 紫蓮は、にこっと可憐に微笑むとくるりと方向転換をして、橙妃に向き直る。


「はじめまして、わたくしは静 紫蓮。流れを中断してしまってごめんなさい。
 貴女が紅のお嫁さんね? まぁ、とても綺麗な夕焼け色の髪をしているのね。羨ましいわ。とても綺麗な髪だから、伸ばして損はないと思うわ。
 目もキラキラ輝いて貴女という人柄を表してるようね。紅のこと、よろしくお願いします。改めまして結婚、おめでとう」

 誉め殺し、そう言っても過言ではないのではないだろうか?
 紫蓮は橙妃の手を取ってふわりと笑いかける。当の橙妃は嬉しさのあまり、顔をうつ向かせてしまう。

 その隣で紅が橙妃を睨みつけ、舌打ちをしたのだが、紫蓮がいるため聞こえない程度にセーブした。
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