「モテない系男子の代表格め」

「き、橙妃様?」

 橙妃は侍女の声かけで、はっと我に返った。怒りのあまり、自分の世界へトリップしていたようだ。

 侍女に謝り、どこにも遣りようのない思いと疲れに対して、ため息をつきながら水差しから水を注いでいると、ドアがコンコンとノックされた。

 侍女が扉を開けると、ピンク色の髪をツインテールにした女の子が立っている。ツインテール娘は、侍女の向こうにいる橙妃を見ると、パッと花が咲くような笑顔を見せた。

「こんにちは」

「李黄様」

 侍女は李黄を見て、困惑の表情を浮かべる。李黄がここにいる理由が分からないのだ。

 それを察した李黄は手招きして、侍女を呼び寄せた。橙妃の側を離れることに躊躇するが、すぐ終わるという李黄の言葉に、橙妃に頭を下げ部屋を出て行った。


「何かしら……?」

 橙妃一連の出来事に首を傾げるが、思ったより早くに扉が開かれたため、考えることを中断する。

 しかし、さらに困惑することに、入ってきたのは李黄一人だけであった。

 橙妃が疑問を口にするより早く、つかつかと彼女に歩み寄った李黄は橙妃の手をぐっと握る。そして、そのまま、力任せに上下にぶんぶん振り続ける。


「こんにちは! アナタが橙妃ちゃんだよね? 初めまして、私は李黄。会えるのをすっごく楽しみにしてたんだ!」

「は、初めまして。あの、手、痛いんですけど……」

「あっ、ごめんごめん! 初日から中々会う機会掴めなくて、やっと今日会えて嬉しかったんだ。だから、ちょっと興奮しちゃって……。ああ、それはそうと、結婚おめでとう!」

「どーも……」

 はっきり言って「結婚おめでとう」だなんて、嬉しくも何ともない言葉……、いや、むしろ今は一番触れられたくない言葉だ。
 しかし、李黄の満面の笑みにつっけんどんに返すこともできず、橙妃は視線を斜めに逸らした。


「そんなことより貴方、獣人でしょう? どうしてこんなところにいるの?」

 橙妃は李黄の耳を指差した。李黄は頬を軽く掻くと、うーん、と困ったような仕草を見せる。

「私は、ねぇ……。紅の数少ないお友達(のはず)なんだ。まあ、紅本人に言ったら照れちゃうけど」

 「照れちゃう、というか全力で変な顔しそうだな」と橙妃は思う。
 珍しくあの紅を「友達」などと称するのだから、目の前の彼女はどこかネジが抜けてるに違いないと、橙妃は失礼極まりないことを心中で呟いた。

 そんなネジが抜けてる疑惑をかけられているとは梅雨知らず、李黄は橙妃をチラチラ見ながら話を続ける。

「私が、ここにいるの不思議だよね? もちろん、紅のお友達だから、それだけじゃないよ。私がここに居る……居られるのはね、『これ』のおかげかな」


 これ、といって李黄が取り出したものは輝く黄色の玉だった。

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