色
李黄と橙妃はその後きちんと和解したものの、橙妃がわざわざ心理的にも追い詰めたことに対して、かなり怒っていたことは想像するに難くない。
そんなこんなで静国にいる李黄がこの国で一体どんなことをしてすごしているかというと、毎日、城下へと繰り出し人々の平和を守っている。つまり警察のような仕事をしているのだ。
とはいえ、李黄は正式に静国の客人として招かれている立場。実際は当たり障りのない程度の仕事…――――書類の運搬などの危険の伴わない雑務を任せられることの方がほとんどだ。
だからといって、李黄はこの扱いに不平を洩らすことはない。城にこもっているよりも外に出られる方が数倍良いし、何より、比較的『普通』に接してくれる者の多い仕事場が好きだった。
「それでは、行ってらっしゃい」
「うん! リョクユも今日一日頑張ってね!」
李黄は元気に手を振るとそのまま、スキップに近い足取りでリョクユと別れた。
リョクユはというと、王のもとへ行く前に忘れ物があったことを思い出し、自分の部屋へ足早に向かって行くのだった。
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李黄は意気揚々と城下町を歩いていた。静国の城下町はうるさく思えるほど人々の活気に満ち溢れている。時間帯も相まって活気の良さは今が一番ピークだろう。
商店街のように左右一列に並ぶ店には、たくさんの色も形も様々な野菜や果物が並び、新鮮な魚がピチピチと跳ね、美しい布や服が飾ってある。アクセサリ類も豊富で、太陽の光を反射してキラキラと輝いている。
ある店では、子どもが数人でお金を手に、真剣な顔でお菓子と睨めっこをしている。また、別の店では店の人間とどこかの主婦が値切り交渉に勤しんでいる。
李黄はそんな明るく生活感の溢れたこの市場が大好きだと感じていた。何度来ても飽きないこの市場には『生活』そのものがある、そう李黄は思っている。
獣人の大陸にも市場はあるが、静国ほどの規模を持つものはなかった。あちらでは族長をトップとする生活形態で、国とも集落ともつかない規模のものが、あちらこちらに点在していた。
そんな文化を形成しているためか、市場といっても毎回決まった日に決まった時間だけ出店される程度だ。
そんな自分の故郷と比べてか、李黄は苦笑いをかみ殺す。
「まあ、あっちはあっちで味わいはあるけど。やっぱり大国とはくらべられないよね」
先ほどとは違い、今度はにこにこと笑顔を顔に浮かべながら、ゆっくりとした足取りで歩き回っていると、後ろの方から女性の切羽詰まった叫び声が発せられた。