紅が彼女を花嫁として選んだ理由はただ一つ。リョクユが推薦した女性の中で一番マシだと思われたから、それだけだ。

 「そろそろ時間ですし、蜜柑姫に決定ですかねえ」とかいうリョクユの呟きが聞こえて焦った結果ではない。断じてない。


 朱国の姫である橙妃は、オレンジの髪という少々変わった髪色の持ち主だ。第一皇女でありながら、紅の伴侶に立候補しているということは、帝位継承者が他にいるためだろう。

 ちなみに、この世界ではいろいろな髪の色の持ち主がいる。紅は黒という普通さだが、リョクユは黄緑色をしている。
 さらに言えば、紅の隣にいる獣人の李黄。彼女はピンクの髪に水色の目を持っている。その上、彼女には感情で動く可愛らしい耳が生えていた。


 李黄は紅の持っている紙を覗き込み、彼女に決まったのかも尋ねる。紅は普通に頷いたあとピシッと固まり、次の瞬間怒りも露に力づくでいきなり現れた李黄を追い出しにかかった。

 しかし李黄は笑顔でそれをひらりひらりとかわしてしまう。

 余裕で紅の手をかわす李黄を見て、紅は口の端をひくつかせている。そんな紅を見ていたのかいないのか、リョクユが余計な一言を口にた。

「紅様、全然ダメじゃないですか」

 怒り易い紅は、そのひと言にぶちギレた。腰の差した剣を抜き、床に突き刺すと、大声で部屋から出て行くよう叫んだ。
 そして、リョクユと李黄の目の前でドアをバタン! と大きな音をさせて閉めてしまった。
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