真紅の世界


ユリウスにキスをされた左手の甲を、隠すように右手で握りしめる。なのに、まだユリウスの唇が触れているかのように、かすかな温もりが残っているような気がする。


「な、あ、い、な……ッ」


言葉にならない声を、途切れ途切れに出すしかできない。
そんな私を、ユリウスはただ微笑んで見つめるだけだ。

……短髪の人は相変わらず、床を叩いて爆笑している。


「サラ。もう気づいているかもしれないが、この国の王は俺だ」


私の考えを肯定する言葉にも、ただひたすらに首を縦に動かすことしかできない。
それはもう、分かってる。
私が知りたいのは、さっきの言葉の意味。
でも、その言葉について何も言わないってことは、特に深い意味はないってことでいいのだろうか。

「そしてこのだらしなく笑っているのが、俺の側近のシーク。 これでもこの国で俺の次に魔力が強い」


ユリウスに紹介された短髪の人……シークは、笑いながらもこちらを見上げて「よ、よろしく、お、ねがい、しますっ」と挨拶をしてくれる。


……これで、この国のナンバーツー。


少しだけこの国が不安になってしまうけれど、それでもトップがユリウスなら大丈夫だと思えるのが不思議だ。


そう思わせるだけの何かがユリウスにはあるんだろう。


だって、アレンの時には全然感じなかった。

逆にブライス国の未来が不安になったくらいだ。


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