真紅の世界
「サラ」
耳に心地いい声が私の名前を呼ぶ。
今なら、ブライス国で聞こえていたあの声が、ユリウスだったんだってわかる。
“我が名を呼べ”
そう訴え続けた声。
“キュイ”
仮の姿で私の傍にい続けてくれたユリウスの優しさ。
どうして私の傍にいてくれたのか。
どうして私を助けてくれたのか。
そんなの分からないけれど。もしかしたら、この先ユリウスに裏切られることがあるのかもしれないけれど。
それでも構わないとさえ思った。
他でもないユリウスに騙されるのなら、構わない。
もし、死ぬのならユリウスに……。
「サラ」
とても口にはできないことをはじき出した、私の思考を途切れさせたのは、力強く私の名前を呼ぶ声。
魔法で私の思考を読んでいるのかと思うほど、タイミングよく私を呼んだユリウスの顔には変わらず甘くて優しい笑みが浮かんでいる。
そうだよね、魔法が使えるって言っても思考まで読めるわけない。
もしあんなこと考えていたと分かっていたら、こんなに優しい顔はしていないはずだ。きっとユリウスは悲しむに決まってる。