真紅の世界


もし、この“黒”が外に出ることで、恐ろしい何かが起こるなら。

その恐ろしい何かが、私だけを対象にするのなら、喜んで抑え込む努力を放棄するだろう。



でも、その何かは、きっとこの世界全体への恐怖だ。


誰に教えられたわけじゃないのに、分かる。

分かることすら不思議に思わないほど、それは当たり前のようなことに思えた。

だからこそ、この“黒”を外に出しちゃいけない。



でも自分を許すこともできない。



そのジレンマから抜け出せないでいると、“黒”に支配されつつある自分の身体の中から声が聞こえた。








“サラッ”




切羽詰まったような、もう聞きなれた声。

私が傷つけてしまった、真っ赤な瞳を持つ真っ黒な人。





“サラッ、目を開けろ!”





開けてる。

開けてるよ。

開けてるのに、目の前には黒しか見えない。




これは、むこうの世界から逃げた罰だろうか。

レティにさよならも言わずに、逃げた罰だろうか。


< 110 / 122 >

この作品をシェア

pagetop