真紅の世界
もし、この“黒”が外に出ることで、恐ろしい何かが起こるなら。
その恐ろしい何かが、私だけを対象にするのなら、喜んで抑え込む努力を放棄するだろう。
でも、その何かは、きっとこの世界全体への恐怖だ。
誰に教えられたわけじゃないのに、分かる。
分かることすら不思議に思わないほど、それは当たり前のようなことに思えた。
だからこそ、この“黒”を外に出しちゃいけない。
でも自分を許すこともできない。
そのジレンマから抜け出せないでいると、“黒”に支配されつつある自分の身体の中から声が聞こえた。
“サラッ”
切羽詰まったような、もう聞きなれた声。
私が傷つけてしまった、真っ赤な瞳を持つ真っ黒な人。
“サラッ、目を開けろ!”
開けてる。
開けてるよ。
開けてるのに、目の前には黒しか見えない。
これは、むこうの世界から逃げた罰だろうか。
レティにさよならも言わずに、逃げた罰だろうか。