真紅の世界
必死で抑えつけようとしているのに、“黒”は勢いを衰えさせることを知らない。むしろ、どんどん外へ出たいと活発になっているようだった。
“サラ! 俺の目を見るんだ!”
さっきよりも、遠くからぼんやりと聞こえる声。
暗闇の中、必死で目を開けてあの鮮やかな真紅の瞳を探す。でもどこにも見つからない。
探している間にも、徐々に“黒”が大きくなってきているのが分かる。だからどんどん焦りが増してしまう。
目の前にいたはずのユリウス。
目を閉じて、次に開けたときには私はもうこの暗闇の中にいた。
魔法の類で、私はこんな暗闇に飛ばされたのかもしれない。でも、魔法の才能は皆無だとお墨付きをもらった私が、そんなに易々と難しそうな魔法を使えるはずがない。ユリウスがそうしたとは到底思えない。
だとしたらどうして私はこんな暗闇にいるの?
それはきっと、目を閉じた瞬間に“黒”が私の中に生まれたから。
だから私はこの暗闇の世界に囚われている。
ということは、私はさっきと同じユリウスの執務室にいるってことになるはずだ。
目の前には焦ったように必死で呼びかけるユリウスがいるはず。
手の届く場所にユリウスはいるはず。
そう信じて真っ黒な闇の広がる空間へ手を伸ばしてみる。
真っ黒なそれは何故か酷く重くて、手を持ち上げるのにも一苦労だった。
それでもその重さに負けないように手を上げれば、その手に触れる温もりが確かにあった。
“黒”の中にいるはずなのに、伝わるユリウスの温もり。
そこには誰もいない。
何も見えない。
でも確かにユリウスがそこにいて、私の手をぎゅっと握りしめてくれている。
それに応えるように自分からも手を握り返す。そして、ユリウスの名前を掠れる声で呼んだ。