真紅の世界
口を開けると、そこから“黒”が侵入してくるような、異様な感覚がする。
“黒”は私の中にいるはずだった。それなのに、私の周りを包むこの暗闇も、確かに“黒”の一部なんだと思い知らされているようで、気持ちの悪い感覚に口を閉じそうになる。
けれど、その“黒”を押し返すようにユリウスを呼んだ。
きっと、それは声にはなっていなかった。
けれど確かに、私はあの時と同じように、自分の意志でユリウスを求めた。
だからこそ、それは起きたのかもしれない。
突如、握りしめた手の先が真っ赤に光り輝き始めた。
それに照らされた“黒”は、瞬きをする間もなく小さくなる。そして、一番最初の様に、一つの点になってから呆気なく消滅した。
私が“自分の意志”で“ユリウス”を求めたから。
だからこそ、“黒”から逃れることが出来たのだろう。
ちゃんと声にはならなかったけれど、私自身がユリウスを求めたことに意味があったんだ。
へたりと崩れ落ちそうになる私を支えたのは、さっきまで見えなかったユリウスの手。
見えなかった手は、今は確かにちゃんと私の手を握りしめている。今はそれがはっきりと見えていた。
とてつもなく長い距離を全力疾走した後のような、プールでたくさん泳いだ後のような、身体の重さといろいろな疲労感が身体中に広がっていた。
弾む息をなんとか整えようとするのに、それすら叶わない。でもユリウスの手を離すことだけはしなかった。
確かにあの“黒”は消えたはずなのに。ユリウスの手を離したら、また生まれてきそうで怖かったから。
今思えば、あの“黒”はアレンの空気に酷似していた。